第一章 売りに来たものは買わない
 皆さんは、ご自身の金融資産をどのように保管されていますか? 多くの方は、銀行などの預貯金※1)として保有されているのではないでしょうか。そして、銀行の窓口の人などから「定期預金が満期になります。預金は金利が低いですから、ここに利息の良い投資信託があります。預金金利の何倍もの分配金が出ます。お買いになったら如何でしょう。」などと言われたことはありませんか? こんな時、皆さんはどのようにされますか?

 お金には、いろいろな誘いの手が伸びてきます。前述のように「投資信託を買ってはどうか」、あるいは、「FXが有利ですよ」、とか、「高金利の外貨で受け取る定期預金がありますよ」などと、例を挙げればきりがありませんね。中には詐欺的なものが混じることもあります。 よく分からずに買ってしまったり、逆に良くわからないから、避けたり逃げたりしていませんか。ご自身の資金・資産なのですから、これらの運用については、正しく対応したいものです。どう取り組めばよいのでしょうか。

 まずは、中立的で信頼できる相談相手をもたれることです。そして、ご自身でもある程度の勉強が必要となるでしょう。何しろ、大切な虎の子に関わる問題なのですから。 そうすれば勧誘などを受けても迷うことはありません。私は、このような場合、「売りに来たものは買わないこと」とアドバイスしています。そうです、資産運用の重要で基本的な考え方はこれなのです。

 資産運用を正しくなさるか、そうでないかでは、人生の後半において、いわゆる老後資金に大きな違いを生じます。そうです、これは一生の重要な課題なのです。そして、よく誤解なさっている方がいらっしゃいますが、宝くじや、競輪、パチンコなど、いわゆる瞬時の勝ち負けを競うギャンブルとは全く異なるものです。それでは、投資と言うのはいったい何なのでしょうか。
※1):日本では約55%の金融資金が預貯金として保有されています。米国では約13%です。

第二章 投資とは、いかに売買するかではなくいかに保有するか
 投資※2)というのは、資本主義経済の根幹をなすものです。投資がないと会社が起こせません。 事業を営んでいらっしゃる方には、投資というのは比較的身近な言葉ですが、サラリーマンにとっては、縁遠い言葉でしょう。しかし、よく考えてみると、皆さんが、銀行にお金を預けている場合、銀行はこのお金を遊ばせておくわけではありませんね。会社などに貸し付けて利息を取ります。ということは、皆さんが、間接的に会社にお金を貸して利息を受け取っていることになります。これは貸し付けで、もちろん投資とは異なりますが、良く似た行為です。ですので、投資ということは、皆さんにとっても、そんなに特別なことではないのです。まずはこの点を理解する必要があります。 資産運用を、少し別の角度から見てみましょう。「株を安く買って高く売る」、投資というと、まずはこんな状況を連想されるのではないでしょうか。これって正しいのでしょうか? 

 明日、株価が上がるか下がるか、実際に誰にも予測はできません。これは、プロでも分かりません。いわば上がる確率と下がる確率は、いつも50%ずつで同じといっても間違いではありません。ということは、安く買って高く売れる確率は50%で、その逆が起こる確率も同じだけあると考えねばなりません。しかも、株の売買には手数料がかかります。また、誰かが儲ければ、その分お隣さんは損をするという世界です。「安く買って高く売る」という投資手法で儲かるということはとても難しいことなのです。

 皆さんは、「しかし株でもうけたという話をしばしば聞くが」とお思いではありませんか?そうです、株は儲かるのです。けれども、これとほぼ同じだけ損をするのです。でも、損をした話はなかなか出てきませんね。それで儲かる話だけが一人歩きしているのです。情報をいち早く入手できるプロでも、売買で儲けることはとても難しいのです。いわんや、素人(半素人を含む)ではとても利益を出すことは無理と考えられます。

 それでは、資産運用(投資)の意味はどこにあるのでしょうか。利益の源泉はどこにあるのでしょうか。世界経済は上がり下がりしながら、成長をしています。ここにきて、大きな落ち込みで、世界経済は様相が大きく変わるように言われていますが、しかしそれでも成長を続けると考えられます。この経済の成長が、投資の利益の源泉なのです。言い換えると、経済界や個々の会社が成長する過程で生み出す利益を、投資家が受け取るということです。会社に資本を出せば、その見返りに収益を分けてくれるのです。これは資本経済主義の基本原理であって、特におかしなことではありません。 過去の日本株価のデーターを見てみましょう。TOPIX(東証株価指数)は1968年にデーターを出し始め、この時は100P(ポイント)でした。40年間後の2007年にこれが約1,300※3)Pとなっています。40年間でTOPIXは約13倍になりました。配当金を含めて計算すると、平均して毎年約8.0%の利益を挙げてきたことになります。一方、この間の消費者物価の上昇は約3.3倍(毎年約3%)です。物価の上昇を差し引いても毎年約5%の収益が上がっていることになります。この数字をみれば、株価の上昇と配当金が、投資の利益の源泉であることが分かります。要するに売り買いする必要はないということなのです。極端にいえば、買ってじっと持ちつづければ良いということです。ある意味、とても簡単なことです。

 言い換えると、資産運用(投資)というのは、“株などをどのように売買するかではなく、どのように保有するか”です。すなわち、どのような形で資産を持てばよいのか、ということなのです。 ※2):投資と資産運用は、ほぼ同じ意味です。資産運用は、利益を得ることを目的として資金を活用(運用)すること。その代表的なものとして投資があります。
※3):2007年は日本株価(東証株価指数TOPIX)が1,800p(ポイント)から900pくらいまで急下落しました。平均を取って1,300pとしています。2009年9月現在TOPIXは830p程度です。この数値を用いれば、40年間で配当金を含めて毎年平均約6.5%となります。しかし、TOPIXの上昇を平均的にみると、8.0%という数値は、むしろ妥当な値と考えます。逆にいえば、本日現在TOPIXは1,400pレベルにあらねばならないということになります。今の不況を脱却した暁には、TOPIXがこのレベルになることを期待したいものです。

第三章 資産運用の5つのステップ
 第二章までで、投資とは何なのかについて、(まあ、なんとなく)わかっていただけたと思います。次に、ここでは、具体的な取り組み方をお話しましょう。次の5つのステップを順に進めてください。

(1)手持ち資金を整理し、運用金額を決める お手持ちの金融資金を整理して、今投資に回せる資金は、いくらまで可能かを明確にしてください。幾らを資産運用にまわすのか決めねば、次に進めませんね。意外に、この辺をあいまいなまま、投資信託や株などを買っている人が多いです。資産運用は計画的におこなわねばなりません。その為の、まさに最初のステップが、これだと思います。

(2)目的と目標を明確にする
ご自身の生活の中で、それなりのリスクを取って資産運用するのですから、その目的と目標を把握しておきたいものです。目的を明確にするとは、例えば、将来の老後資金を確保するためなのか、自宅を購入する資金を2年間で貯めようとするのか、あるいは、趣味的な遊び心で資産運用するのか、といったことです。 目的によって、何パーセントのリターンを取りに行けばよいのかが、ほぼ見えてきます。また、そのときのリスクは何パーセントくらいになるか。それによって、値下がりしたときに我慢できる範囲なのか、を同時に考慮する必要があります。これらを踏まえて、どのような資産運用にするかを決めることになります。

(3)リスクとは何かを理解する
金融商品は、常に値動きしています。このように、価格が上がったり下がったりして、平均的にはあがっていくものと考えられ(あるいは、期待され)ます。ます。この価格が上がったり下がったりすることをリスクといいます。一般的に金融商品はハイリターン/ハイリスクです。大きな収益を期待すれば、その分値動きは大きく、不況時には大きくマイナスになることを覚悟せねばなりません。資産運用と言うのはこういうもの(リスクを伴うもの)だということを、しっかりと頭に入れて取り掛かることがとても大切です。

(4)どの種類の資産を購入(アセットアロケーション)するかを決める
いよいよ、資産運用の開始です。準備に大分手間取りましたが、今までのステップはとても大切です。どのような種類の金融資産かと言うのは、債権か株式か商品※4)か、また日本国内のものか、海外のものかということです。資産をアセットといい、どう組み合わせるかをアロケーションといいます。すなわちアセットアロケーションと言うのは、どの種類の金融資産をどう組み合わせるかということです。これは、前出の目的と目標あるいはご自身の好みなどによって決まってきます。これらが決まれば、実際の金融商品を購入することになります。

(5)長期運用とリバランスを実施する
金融商品を購入したら、それらをどう取り扱うかですね。基本は長期運用です。何か問題が生じるまでじっと保有するのが原則です。問題とは、その企業が倒産するかもしれない、ある国の経済がおかしくなってきている、景気が明らかに大きく下げようとしている、あるいは今は景気の回復期だ、といったことなどです。通常の商品価格の上下は、あるいはそれほど深刻とは考えられない好不況は、売買の対象としないのが長期保有の考え方です。 そして、リターンをより有利にする手法としてリバランスがあります。これは、買った資産の保有割合が当初の計画からずれてきた分を修正することを言います。1年とか2年とかに一度というように定期的に行うことです。リバランスは言い換えると、価格の上昇している商品(従って収益の出ているもの)を売って、価格の下がっているもの(従って損をしているもの)を買うことを定期的におこなうことです。資産運用の基本的で大切な点は、個人の感情ができるだけ、入り込まないようにすることです。儲かっているものは売りにくいとか、損をしているものを買うのはどうかとか、あるいはその反対もあるかもしれませんが、兎も角半自動的に、リバランスを実施することが、収益を押し上げるという過去のデーターがあります。これに従うことです。
以上が、資産運用のお勧めの5つのステップです。いずれにしても簡単なこととは思いません。ぜひとも中立的な立場でアドバイスする、独立系のファイナンシャル・プランナーに相談してください。
※4)商品とは、小麦やトウモロコシなどの穀物、金やインジュームなどの金属、石油など資源を言います。コモディティーといいます。

 
 
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